薬を売ることに絶望し役割を再認識

 やや高齢のお客様が『葛根湯』を購入されるさいに、発熱してからでは遅いことを伝えると、具体的に何度くらいか質問された。
 その疑問は、当然だろう。
 でも人間の体は機械ではないので、単純に体温を基準にするのは適切ではない。
 とはいえ、目安としては38度くらいか。
 そのうえで、本人の体感として悪寒を感じず、歩くのがツライくらい頭が熱感でボウッとするようなら、『葛根湯』ではなく『麻黄湯』に乗り換えるタイミングである。
 そして、発熱により汗をかくようになったら『麻黄湯』も終わり、回復期を助ける『柴胡桂枝湯』にバトンタッチとなる。
 そうお話して、詳しく症状を確認すると、今回は常備薬としての購入で、喉から風邪になりやすいというお話だったため、鼻水が無ければ上半身を温める『葛根湯』より適応する『銀翹散』を紹介した。

 『桔梗湯』をレジに持ってきたお客様から、授乳中に使えるか質問され、大丈夫ですとお答えしたうえで、お腹が弱くないかを確認した。
 主訴は喉の痛みだそうで、熱を発散して炎症を取り除く『甘草湯』と違い、『桔梗湯』は冷やして炎症を抑えるため、お腹の弱い人はまれに下痢してしまう事があることをお話した。
 まぁ、滅多にありませんが、私は駄目(;´∀`)
 特にお腹が弱いことは無いそうなので、そのままお買い上げ頂いた。
 それから、頭重感や熱感がある場合には、風邪への進行に備えて『葛根湯』を併用するように伝えた。

 『麦門冬湯』などの咳関連の薬を手にして迷っている様子のお客様に声を掛けてみたけど、案内は断られた。
 その後に風邪の棚に移り、『パイロンS』を選んでレジに持ってきたため、喉の痛みや発熱があるのかを尋ねると、どちらの症状も無いという。
 えっ、じゃあなんで(^_^;)?
 主訴を詳しく訊いてみると、咳と鼻水だそう。
 そして咳は、夜に激しくなるということから『五虎湯』を考えたけど、鼻水の状態を確認してみたら透明だそうだから、やはり向かないかもしれない。
 お客様の唇を観察すると、表面は荒れているものの、歯に近い濡れてる部分は歯型がついていた。
 これは胃を悪くして、水分代謝の異常が起きている証拠である。
 となると、胃の働きを改善して咳を止める『麦門冬湯』が適応しそう。
 透明な鼻水は、内臓の冷えが関係するから、放っておくと垂れてくるほどでなければ、『麦門冬湯』で胃が改善すれば咳と一緒に治まるはずだ。
 お客様には、解熱剤の入った総合風邪を、発熱していない時に使うと疲労に繋がることを説明し、『麦門冬湯』を案内すると変更してお買い上げ頂いた。
 あと、夏野菜を避けて冬のメニューを意識した食事を摂り、長めの入浴で下半身を温めるよう勧めた。
 それにしても、最初は咳止めの棚を見ていたはずなのに、どうして総合の風邪薬の方に行ってしまったのだろうか。
 たとえ起きていない症状でも、効能範囲が広い薬の方に安心感を覚えてしまったのかもしれない。
 以前に某製薬メーカーの人から、ドラッグストアーでお客様が薬を選ぶ場合の動向調査の結果を見せてもらったことがある。
 アンケート調査というものは、設問の仕方で結果が変わってしまうから、本来はその辺りも詳細に確認しないと鵜呑みには出来ないのだけど、それを措いておいても興味深い結果だった。
 まず、回答者の約6割以上が「有名メーカー・有名ブランド」で選択しているという。
 そして、約2割が「効能・効果」で選んでおり、残りの1割が「店員に相談」して、残りの1割が「その他」だった。
 まぁ、ここまでは自分の実感とも変わらない。
 問題なのは、「効能・効果」で選んでいるという約2割のうち、本当に「成分と効能・効果を理解していた」のは、さらに1割程度だったという事。
 ええと……割り算が苦手なんだけど、全体の2割のうちの1割って全体から見たら何%(^_^;)?
 そんな訳で、調査をしたメーカーの人からは、薬が上手く適応しなかった場合、患者さんからしたら「効かなかった」と認識されてしまい(自分で選んだのに)、それが長期的には売上やブランドイメージにも影響するため、「患者さんへのコーディネートをお願いします」という主旨で話をされた。
 でも、これは商売を抜きにしても大問題だろう。
 なにしろ、成分と効果を結びつけて適応しそうな薬を選んでも、実のところ効くか効かないかは、体質と症状と環境など複合的な要素が絡み合っているギャンブルみたいなもん。
 なのに、薬を選ぶ段階で当たる確率を上げるための方法であるはずの、「店員に相談」が1割しか無いってんだもの。
 ある意味絶望して、同時に薬を売る役割を再認識させられた。

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