≪第7回≫疎経活血湯

漢方薬症例クイズ≪第7回≫

 実際の症例を元に、患者さんの症例データーを提示します。
 “書いてある内容”から推理して、適応すると考えられる漢方薬の名前を当てて下さい。
 基本的に当店で扱っている漢方薬としますが、解答としては必ずしも限定しません。「なるほど、その方法もあるか」と思われる解答であれば、正解とする事があります。(生薬のみや民間療法などは除外します。)
 正解者の中から、抽選で2名様に『切子タンブラーペアを進呈いたします。
 絶対の正解というものはありませんのであくまで、“あそび”として楽しんでいただければと思います。
 皆様の参加をお待ちしています。(終了しました)

切子タンブラーペア

kiliko.jpg (168563 バイト)

 どこか懐かしい雰囲気を持ちながら、現代的なセンスを漂わせる切子タンブラーのペアを、2名様にプレゼントいたします。

募集期間:~7月26日(月)
正解発表予定:7月30日(金)

問題
 女性。43歳。
 主訴は、背中と肩のこり、痺れ感と痛み。
 体格は中肉中背で、肌に艶が無い。ややのぼせを感じる一方で貧血気味であり、疲労感があるとの事。舌は、やや白苔。
 来店時は1月で、昨年の夏に冷房の強い職場で仕事をしていて、肩から背中にかけて痺れを感じるようになった。特に左側が痺れる感じ。
 コーヒーが好きだが、お腹が冷えやすいのでホットで飲むようにしている。 
 詳しくお話を聞いた中で、数年前に卵巣を片方摘出している事を知らされた。
 漢方薬を服用してもらったところ、半年余り続いていた症状が1週間程度の服用で改善し、それからも量を減らして継続中。
 この患者さんには、どの漢方薬を選んだか?

正解
 
正解疎経活血湯です。
 当選したのは、以下の2名の方です。おめでとうございます。
  ※ともっちママ様…選んだ理由:「痺れ感と痛み」に効くのはこれだ!!と思いました。私ならこの漢方で治します!!

  正解者が1名でしたので次選の漢方薬として、婦人華を挙げられましたもんもこ様を当選とさせていただきました。正確には婦人華は漢方薬名ではなく商品名なのですが、選んだ理由が適当すると判断しました。   もんもこ様…選んだ理由:年齢やのぼせ、肩こりの症状があり卵巣を片方摘出していることから、更年期障害と思われ肩こりや貧血・冷え性・のぼせに効く婦人華が最適と思いました。

解説
 
さらりと書いてありますが、卵巣を摘出したという部分には注目しておかなければなりません。
 卵巣などの女性特有の器官に限らず、手術を経験している人は必ず術部がお血(おけつ)を起こしていると考えられるからです。
 その部分が女性特有の器官である事を考えると、年齢に関係無く更年期障害同様の症状が現れている疑いがあります。
 そして、そのうえで主訴を診ていくと、肩こりは肩が張るとか重いというものではなく、痺れる傾向を訴えており、これは正座をした時に血行が悪くなって痺れるというのと同じ状態なのだろうと推察できます。
 同様に肌に艶が無いという事は、血行不良である事を補強していると考えられ、のぼせがある貧血症状は、体温を一定に保つと共に栄養素を全身に行き渡らせるという働きを血液が順調に果たしていないという状態を示しています。
 これらを総合すると、お血を取り除き血流を良くする漢方薬をと考えるのは極めて適切ですが、忘れてはならない事があります。
 それは主訴として痛みも訴えており、まずはそれらの“苦痛”を先に取り除くという事です。
 漢方薬を学んでいく課程で、ついつい“根治治療”をしようとして、患者さんが今現在苦しんでいる症状を「元が治れば楽になるから」と後回しにしてまいがちです。しかし、やはり患者さんを早く楽にしてあげる方法を検討しなければならないでしょう。
 そこで、痛みを取り除くと共に血流も改善する漢方薬として、疎経活血湯を用いました。
 疎経活血湯の効能は神経痛や筋肉痛などの治療な訳ですが、その名前に血流を良くする“活血”という意味の言葉が付いている事を憶えておくと良いでしょう。

補足
 やはり、患者が女性である事、卵巣を摘出しているという点から、婦人病疾患として解答された方が多かったです。
 代表的な漢方薬としては、次のような物がありました。
 まず加味逍遥散ですが、主に胸脇部から腹直筋上部の緊張と炎症を取り除き、血液の循環を良くする作用があります。しかし、加味逍遥散を用いる場合は、のぼせによるイライラであるとか不安感などの精神神経症状を伴う場合を目標にした方が適切だと思われます。貧血気味で肌に艶が無い点から四物湯を合方するという方法を挙げた方もいらっしゃいます。確かに四物湯を合わせると血流をより良くする当帰と、痛みを和らげる芍薬が加わるので、加味逍遥散を単独で用いるよりは良いでしょう。ただ、今回の患者さんの主訴にある痺れや痛みを取り除くのには、それでも効き目が弱いだろうと考えられます。
 当店では扱っていない漢方薬ですが、婦宝当帰膠(ふほうとうきこう)という解答もありました。
 更年期障害に用いる漢方薬で、解答者の方もやはり婦人病で調べたようです。婦宝当帰膠は十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)を基にした処方で、その特徴は「血の虚」(貧血)を治し、「気の虚」(元気の衰退)を治す事だとされています。すなわち更年期障害が、著しい疲労感や精神的な落ち込みとして現れ、衰弱している場合に用いるのに適しています。今回の患者さんの場合は、そこまでの訴えは無く、また主訴の改善には適しません。
 病院で更年期障害に対して処方される事が多いのは、なんといっても当帰芍薬散でしょう。眩暈(めまい)や肩こりなど、更年期障害の不定愁訴を広範囲にカバーできる漢方薬ですので、迷った時にはまず当帰芍薬散を試してみて、それからより適した漢方薬を探すという使い方もできます。また、含まれている生薬のうち沢瀉(たくしゃ)以外は温性なので、冷え性の場合に効果を発揮します。ただ、今回の患者さんの場合は体質的に冷えやすい傾向にあるものの、のぼせも感じているので単品で用いるのは避けておいた方が無難です。
 一方、解答として挙げている人はいなかったのですが、桂枝茯苓丸も候補にはなると思われます。当帰芍薬散と同じく更年期障害による眩暈や肩こりに使われ、当帰芍薬散が適応する人とは反対に、のぼせの傾向が強い人に用います。おそらく候補として挙がらなかったのは、あくまで今回の患者さんの症状の原因は冷えにあると皆さんが考えたからでしょう。
 そこで、少々変則的ではあるのですが、冷えのある人にものぼせのある人にも、どちらにでも効くようにと開発された婦人華です。当帰芍薬散桂枝茯苓丸を合わせて、さらに通経・鎮静・鎮痛の目的で汎用されているサフランと、血液の循環を良くし、衰えている器官や組織を賦活するビタミンEを加えた製品ですので、体質と症状共に、かなり広い範囲をカバーできて便利に使用できるという点において他の処方よりも有効だと考えました。
 さて、婦人病疾患とは別に痛みを主眼に解答された中で一番多かったのは、桂枝加朮附湯でした。この漢方薬は上半身を温める力が強く、寒証者向きの人の神経痛に適応するので、候補として挙がるのは当然だろうとは思います。しかし繰り返し述べているように、お血を取り除く事を考えると、桂枝加朮附湯の生薬成分は鎮痛と温める効果のみに偏っており、また、汗の出やすい水分代謝に異常のある人や、基礎体力からして弱い人に向いています。なので、今回の患者さんのケースで当帰芍薬散と比較した場合は、当帰芍薬散の方が適応するでしょう。
 それから、 「肩こりには葛根湯」と云われるように、一般的には風邪と並んで使われる機会が多い葛根湯という解答がありました。その中には、患者さんの舌が白苔で温かい物を飲みたがるのは寒証だと読み、身体を温めて肩から背中にかけての強ばりにも効く物として葛根湯を推挙された方もいらっしゃいました。解説で書いたように、患者さんの症状を早く取り除くという観点から見れば、葛根湯は臨床的にも服用後の効果の発現が30分前後と早い事が証明されているので間違いではないのですが、一方で、どちらかというと急性症状の初期にこそ有効であるものの、今回のように中長期化している症状に対しては効き目が弱いという報告があるため、候補からは除外されます。葛根湯の効能にある肩こりなどは、風邪などの急性疾患による随伴症状に用いる物として考えた方が適切です。
 最後に、問題の中の「コーヒーが好きだが、お腹が冷えやすいのでホットで飲むようにしている。」という部分は、直接的ではないにせよ、この患者さん自身が症状に対して非常に好ましくない事をしているという点は見逃してはなりません。コーヒーは暑い地域で涼感を得るために飲まれているように、たとえホットで飲んだとしても体を冷やしてしまいます。発症のキッカケが冷房であった事、お腹が冷えやすいと自覚している事からすると、コーヒーが治療の妨げになる事を知らせる必要があります。かといって、好きだという物を無理にやめさせると、それがストレスとなってしまい弊害があります。そのため、今回の患者さんには影響が最小限になるように、夜間のコーヒーは控えて、後で体を動かす事が確実な朝に飲むように勧めました。
 漢方薬に限りませんが、薬の効果が思わしくない場合には、薬の変更と共に、他に阻害している要因が無いかも考えましょう。

解説:北村俊純

参加者コメントより
 寺山雄一郎:水出しコーヒーおいしく飲ませていただきました。
 それは、なによりでした。また何か美味しい物を見つけたら、賞品にしてみようと思います。

 鈴木陽子:漢方薬を選ぶのは本当に難しいですね。日々勉強が必要だと思いました。
 病気になるリスクは誰にもありますので、自分で知る事はやはり大切ですね。

 ともっちママ:私自身、冷え性なので漢方にとても興味があり、こちらのホームページでも勉強中です!
 冷え症の人は多いだけに、その原因も治療法も様々です。ご自分に合う治療法なり漢方薬が見つかるよう及ばずながら協力できたらと思います。

 もんもこ:とっても面白いクイズでした。貴サイトは症状で検索できるので何が効くか、判りやすくていいですね。これからも体調が悪いときは利用したいと思います。
 参加していただきありがとうございます。一応、症状で検索したいという要望がありましたので対応しましたが、症状だけでは判別できない事もありますので、今後ともお役に立てる情報を提供していくつもりです。どうぞ、ご利用下さい。

以下の記事も読まれています。


 
登録販売者から一言 壱の巻 登録販売者から一言 肆の巻「おくすり手帳と個人情報の使い方」 市販薬購入前チェックシート