≪第6回≫黄連解毒湯とよく苡仁

漢方薬症例クイズ≪第6回≫

 実際の症例を元に、患者さんの症例データーを提示します。
 “書いてある内容”から推理して、適応すると考えられる漢方薬の名前を当てて下さい。
 基本的に当店で扱っている漢方薬としますが、解答としては必ずしも限定しません。「なるほど、その方法もあるか」と思われる解答であれば、正解とする事があります。(生薬のみや民間療法などは除外します。)
 正解者の中から、抽選で3名様に『水出しアイスコーヒーパック2コ入りを進呈いたします。
 絶対の正解というものはありませんのであくまで、“あそび”として楽しんでいただければと思います。
 皆様の参加をお待ちしています。(終了しました)

水出しアイスコーヒーパック

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 1リットルの水に1パックを一晩(約8時間)漬けておいて、コーヒーの成分を水に自然に溶け出させる、『水出しアイスコーヒー』です。
 沸騰させたお湯で入れるのとは違い、コーヒー本来の甘味が出るので砂糖もミルクも入れずに、コーヒーの旨味をあますところなく楽しめます。
 当選者の方には、販売元であるコーヒー専門店『こらんしょ』から、水出し用に挽いてもらった豆のパックを直接配送させていただきます。

募集期間:~6月28日(月)
正解発表予定:6月30日(水)

問題
 女性。25歳。
 主訴は、日焼け。
 日差しの強い日に、うっかり日焼け止めクリームを塗らずに外出したら、思った以上に日焼けしてしまった。
 顔は真っ赤に腫れて、分泌物が滲んできている。
 患部はヒリヒリと熱感があり、咽喉も渇きやすいという。上半身に火照りを感じるが、暑気当たりのように食欲が落ちたりはしていない。
 まずは皮膚の炎症を抑える必要があるだろう。
 そして、シミになる事を気にしているようなので新陳代謝を活発にして皮膚の再生を促進させるために、別な漢方薬も合わせる事にした。
 組み合わせた2種類の漢方薬は、何と何か。

正解
 
正解黄連解毒湯よく苡仁です。
 両方を一緒に答えた方はいらっしゃらなかったので、まず黄連解毒湯を挙げた方を正解としました。
 当選したのは、以下の2名の方です。おめでとうございます。
wara納豆様…選んだ理由:ほてりをとり、新陳代謝を活発化する。(他に加味逍遥散)
エド様…選んだ理由:炎症を防ぎ、体の代謝を活発にするため。(他に清上防風湯)

 次選の漢方薬としては、白虎加人参湯が適していると考えられるので、解答された以下の方を当選とさせていただきました。
齊藤 誠様…選んだ理由:炎症を防ぎ、体の代謝を活発にするため。(他に消風散)

 また、今回は外用薬を想定していませんでしたが、紫雲膏桂枝茯苓丸を解答された方がいました。適切な治療と考えられますので当選枠を拡げて、同じく当選とさせていただきました。
寺山雄一郎様…選んだ理由:火傷に一番効くのはを患部に直接塗ることである。シミ防止のために桂枝茯苓丸を服用する。

解説
 通常の日焼けにおいては、体表部の熱を取り除き、体内が状態になるのを防ぐ事が治療の目標となります。
 しかし、今回の患者さんのケースでは患部から分泌物が滲んできており、さらに感染症の予防と皮膚への栄養補給が必要となります。
 一方、咽喉の渇きから体内のも考えられるのですが、食欲は落ちていないようなので、幸いにして暑さにやられながらも暑邪による体内への影響が軽度であったと思われます。これは同時に、全身ではなく上半身、特に顔の部位の症状が顕著な事を意味しています。
 そこで体表部の熱を取る事よりも、上半身の熱を降ろす事に重点を置いて治療します。そのために用いるのが黄連解毒湯です。
 そして、分泌物が滲んでいるという事は体内に雑菌が侵入しやすい状態なので、名前の通り解毒作用が期待できます。
 また、黄連解毒湯は脳卒中の予防効果があり、高血圧による精神不安や不眠を改善する事から、日焼け後の興奮を鎮めるのにも役に立ちます。
 さて、次にシミの予防として新陳代謝を活発にする場合、血行を良くする事が先決となります。
 しかし、今回の場合は明らかに表皮は火傷に近い状態で、体内から皮膚が再生するのを待たなければなりません。
 そのため、直接的に皮膚の材料となる物が必要となります。
 そこで、近年では美白効果も期待されている、よく苡仁を用いる事にしました。

補足
 まず黄連解毒湯と併用する場合、加味逍遥散は胸脇部から服直筋上部の緊張と炎症を取る作用があり、さらに血液の循環を促す物ですので、使い方としては良いかもしません。ちなみに、加味逍遥散よく苡仁と併用して指掌角皮症の治療に用いる事があります。
 清上防風湯黄連解毒湯と生薬成分を比べると、実は内容的に近い事が分かります。漢方薬では一般的に、成分の種類が少ないほど効果は鋭くなり、多くなるほど穏やかに効くとされています。それを踏まえると、今回のケースよりも軽度の日焼けに用いるという考え方もできます。いずれにしろ、どちらか一方を服用すれば併用する必要は無いでしょう。
 白虎加人参湯は、実は標準的な日焼けに用いる漢方薬ですので、今回のような上半身のみの症状が顕著というようなケースでなければ、正解となる物です。ただし、石膏(せっこう)が多く入っている点には注意が必要です。石膏は打撲のさいに患部に塗って冷やすのに使うほどですので、これを服用する事は強烈に皮膚を冷やすため、日常的に体力の弱い人や冷え症の人に用いると吐き気などをもよおす事があります。日焼け後に、強い口渇があり、水を1日に何杯も飲むような場合に、短期間だけ用いると良いでしょう。
 消風散は、白虎加人参湯と同じく石膏が入っており皮膚を冷やすのに適しています。同時にそれは、併用を避けなければならない事も意味しています。しかしもっとも重要な事として、消風散の効能書きにある「分泌物が多く」というのは、皮膚疾患の原因が血液循環の不良などによる物の場合で、日焼けは例え分泌物が滲んできていても原因は紫外線による火傷であり、皮膚や体内はしていると考えられるので用いるのは好ましくありません消風散を解答された方が多くいらっしゃいますが、注意して下さい。
 紫雲膏は漢方薬の外用薬で、火傷に用いると効果的です。主成分がゴマ油(胡麻油)なので顔に塗るとなるとベタついて不快感があるかもしれませんが、感染症の予防にもなるので日焼けの初期治療としては、もっとも適切だと思われます。
 そして日焼けの後のシミの原因の1つは、毛細血管が破壊されてお血状態になる事ですので、駆お血剤として桂枝茯苓丸を用いるというのは良い判断でしょう。
 その他に、皮膚の炎症という事で十味敗毒湯という解答もあったのですが、生薬成分の防風(ぼうふう)と荊芥(けいがい)が温めながら炎症を発散するタイプなので、外部からの熱により起きた炎症には適しません。
 ウチのお店では今のところ扱っていないのですが、紫紺エキスと茵ちん蒿湯という解答もありました(茵ちん蒿湯はツムラ製135参照)。紫紺エキスは消炎作用と保湿作用がありますので、外用薬として用いるのは適していると思われます。ただ、今回と比べて症状が軽度の場合の方が良いでしょう。そして、茵ちん蒿湯は生薬成分に黄連解毒湯にも入っている山梔子(さんしし)が配合されているので冷やす作用があるのですが、同時に便秘薬として用いる大黄甘草湯に入っている大黄(だいおう)も含まれています。今回の患者さんは食欲不振は訴えていないとはいえ、日焼けの後には胃腸の働きが低下して下痢になる可能性があります。そのため、下剤としての薬効がある大黄が入っている茵ちん蒿湯の使用は避けておいた方が無難だと思われます。
 変わったところでは、麦門冬湯という解答がありました。肺の潤い不足によるを止める麦門冬湯を用いるというのは、日焼けの後に肺に熱が篭り、しやすくなるのを防ぐ事ができると考えられるので、実用的で面白い使い方だと思います。
 効能に日焼けと書いてある漢方薬は無いため難しかったかもしれませんが、基本的に日焼けは火傷と同じですので、急性かつ熱性の皮膚疾患だと考えるのが妥当でしょう。今回の問題は、『漢方薬のお勉強会』『肌のトラブル』が参考になるものとして選びました。
 日焼けは一見すると表面上の症状だけのようにも思われますが、実際には体の中で血液の循環が悪くなったり、熱い空気が溜まったままになったりと体内においても悪い影響を及ぼす事があります。くれぐれも、軽視せずに予防と治療に努めてもらいたいと思います。

解説:北村俊純

参加者コメントより
 あゆみき:問題面白かったです!
 ありがとうございます。今回は残念でしたが、ぜひまた挑戦して下さいませ(⌒▽⌒)

 齊藤 誠:もうメンドウなんで薬ウサギに食べられて治せ! あとは皮膚科にいくことを薦めておいてください。
 あはははは、そうですねぇ、食べてもらいましょう(^.^) それと、おっしゃられるように、ちょっと日焼けしすぎたと思ったら「日焼け程度」だと放っておかないで病院に行くのが良いでしょうね。

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