≪第10回≫六味丸

漢方薬症例クイズ≪第10回≫

 実際の症例を元に、患者さんの症例データーを提示します。
 “書いてある内容”から推理して、適応すると考えられる漢方薬の名前を当てて下さい。基本的に当店で扱っている漢方薬としますが、解答としては必ずしも限定しません。「なるほど、その方法もあるか」と思われる解答であれば、正解とする事があります。(生薬のみや民間療法などは除外します。)
 正解者の中から、抽選で3名様にトートバッグを進呈いたします。絶対の正解というものはありませんのであくまで、“あそび”として楽しんでいただければと思います。皆様の参加をお待ちしています。

トートバッグ

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 イタリーセレクトコレクションのトートバッグを、3名様にプレゼントいたします。

募集期間:~4月18日(月)
正解発表予定:4月25日(月)

問題
 女性。52歳。
 上半身にのぼせを感じ、不快でイライラしがち。自分でも怒りっぽいのを自覚している。
 足腰がだるく階段の昇り降りがつらい。
 白髪が増えて、肌ががさつき、目がして赤くなる。
 疲れたり寝不足になると、顔がのぼせて汗が多くなる。
 1年くらい前から生理が遅れがちで、数ヶ月無いこともある。
 おそらく、なんらかの原因で栄養が不足しており、普通は体の働きが落ちるところが、その不足を補おうとかえって体が頑張っているため、のぼせなどの症状が現れていると考えられる。
 体が働きすぎるのを抑えつつ、補うのに用いる漢方薬は何か?

正解
 正解は六味丸です。
 しかし、正解者がいませんでしたので、次選として杞菊地黄丸を正解とします。
 さらに、当選者枠が3名のため、他に適応する漢方薬として温清飲を加えます。

 当選したのは、以下の3名の方です。おめでとうございます。
 杞菊地黄丸と解答された方。
  ※keikoko様…選んだ理由:上半身にのぼせができたのと、目が疲れやすいのと、顔がのぼせるというのを見て間違いないと思いました。
  
かりん様選んだ理由:まず「のぼせ」という言葉が説明にあったので、よく読んでみたら「」という症状があって、さらに「目の疲れ」もあり、「イライラ」なども目に付きました。
 
温清飲と解答された方。
  ※S800PG様…選んだ理由:ナシ

解説
 主訴はのぼせですが、随伴症状が多岐に渡っているため整理していくことが必要になります。
 すると、上半身はのぼせに関連するかのように、目の渇きや肌のかさつきなどがあるのに対して、足腰のだるさや白髪が増えてきていることから、栄養不足であることが読み取れるでしょう。
 一方で、のぼせる力はあるため、栄養そのものが不足しているというよりも、栄養を運ぶ機能が低下していることが考えられます。
 つまり、栄養を運ぶ血の不足、血虚が疑われます。
 この場合に必要なのは、体には働こうとす力があるので、血液が循環しやすいように体の環境を整える事です。
 六味丸に含まる地黄(じおう)・山茱萸(さんしゅゆ)・山薬(さんやく)はいずれも補性作用があり、茯苓(ぶくりょう)と沢瀉(たくしゃ)が局所的に水分が停滞するのを防ぎつつ、牡丹皮(ぼたんぴ)が血液の循環障害を取り除きます。
 また、六味丸の効能書きには「排尿困難、」とありますが、これは腎に作用する漢方薬なのだと覚えておくと良いでしょう。
 漢方で云う腎とは解剖学的な腎臓の意味に留まらず、泌尿生殖機能を含む精力と密接な関係があり、生理が遅れがちである事は、加齢による精力の減衰も示しています。

補足
 六味丸に血管を通る血流を良くする作用のある枸杞子(くこし)と菊花(きくか)を加えたのが、杞菊地黄丸です。
 先に栄養そのものが不足している訳ではないとして六味丸をあげた訳ですが、より栄養不足が顕著な場合には杞菊地黄丸が適しているでしょう。
 解答で興味深いのは、問題には「目の疲れ」とは書いていなかったにも拘らず、2人の方が「目の」を「目の疲れ」と読んだことです。
 クイズという性質上、書いてある事柄だけから判断しなければならない訳ですが、患者が言っていなかったとしても推測できる事は考慮しておく必要があるという点において、良い判断だと思います。
 温清飲については、他に解答として出ていた漢方薬との比較の中で決めさせていただきました。
 温清飲の基本処方は四物湯で、血液を補い、血の巡りを良くする作用があります。そこに消炎効果があってのぼせを下げる黄連解毒湯を合わせた物です。これにより温清飲は、肌のがさつきや目のを潤して、主訴であるのぼせも治せるだろうと思われます。
 解答の中には黄連解毒湯もあったのですが、今回は血流の改善と、それによって皮膚の状態も良くなる方が適していると考え候補から除きました。
 さて、解答の中で一番多い見立ては更年期障害でした。
 これは患者さんの年齢からも、のぼせを始めとした不定愁訴からも当然の事と思います。
 そのため一応、それを措いておくための条件付けとして栄養不足の可能性と、補う漢方薬を用いることを示唆しました。
 それを踏まえて、更年期障害に関連した処方についての解答を検証してみました。
 まず、のぼせから桂枝茯苓丸を考えた場合ですが、お血によるイライラ感や月経不順に使えるものの、補う効果が少ない点が適応しないと考えられます。これは、桂枝茯苓丸当帰芍薬散を合方した婦人華にしても同じでしょう。
 では、加味逍遙散はどうでしょうか。加味逍遙散にも六味丸桂枝茯苓丸と同じく牡丹皮が入っており、血液の循環を促して、山梔子(さんしし)や薄荷(はっか)が、のぼせやイライラを取り除く事が期待できます。しかし同時に、山梔子も薄荷も燥性なため、皮膚のなどを示している患者さんには向きません。
 柴胡桂枝乾姜湯においては、か楼根(かろこん)が潤性が強いのでに良く、牡蛎(ぼれい)には鎮静効果があるため随伴症状に効果があるとも考えられますが、のぼせには適応せず、より虚証の人に使うのが良いでしょう。
 柴胡加竜骨牡蛎湯は、やはりのぼせとイライラという症状に対して考えられたものと思われますが、皮膚のや栄養不足には他の漢方薬に役目を譲った方が適切です。ただ、寒熱のハッキリしない場合でも、かなり広く用いることができるので、応用はできるかもしれません。
 主訴ではなく、栄養不足に目を向けた物として、十全大補湯という解答もありました。解答者は血虚を考えたうえで、燥性の物も避けて選んだとの事で、着眼点は良いと思います。しかし十全大補湯は、病後に用いる事が多いように、全身的な疲労倦怠が強くて、皮膚のだけではなく顔色も悪いような患者さんに適しています。今回の問題では、足腰のだるさは訴えていますが、そこまでの疲労には言及していないため、除外となります。
 逆に小建中湯は、虚弱体質者に対して強壮作用はあるものの、のぼせを始めとする随伴症状には効果が期待できないため不正解とさせていただきました。
 実は今回の問題は、前回の解答で杞菊地黄丸というのが多かったため、その基本処方である六味丸を用いたケースを探して問題を作成しました。
 そうしたら今度は、正答者がゼロという結果に……。
 面白いというかなんというか、漢方薬の適応を考えるのは大変だなぁと改めて痛感しました。

解説:北村俊純

参加者コメントより
 keikoko:クイズをきっかけに漢方に強くなりたいです。
 前回は惜しかったですね。今回は、着眼点が良かったようです。

 かとう:今回は「参加することに意義がある」の意気込みで参加しました。
 私も、皆さんの解答を拝見して勉強させていただいていますm(_ _)m

 K.H:掲示板が和やかな雰囲気で楽しい♪
 なんか、薬局とは全然関係の無い話題ばかりですが(苦笑)

 まりん:とても役立つサイトですね。
 ありがとうございます。まだまだ中途な構成ですので、今後とも頑張ってゆきたいと思います。

 かりん:初めてホームページを拝見させていただいたのですが、とても興味を持ちました。私は腰が冷えたり腰痛になるとすぐに下痢をしてしまうし、少しでもストレスを感じると胃がムカムカして気持ち悪くなるし痛くなります。漢方で治るならぜひ利用してみたいです。いろいろ見てみたのですが見る限り私の症状にぴったり合う薬が見つかりませんでした。今度健康相談カードでお聞きしたいので、その時はよろしくお願い致します。
 はい、相談はいつでもお受けしています。ぜひ、お問い合わせ下さい。お大事に(・v<)

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