「どの風邪薬が一番良く効くか」という質問は店員への無茶振り

 やや高齢のお客様から痛み止めを求められて鎮痛剤の棚を案内したところ、お客様自身が『イブA』を選ばれ、お会計のさいにカラ咳を何度もしていたため尋ねたところ、ついさっき飲んだお茶で咽(むせ)たとのことだった。
 何か売りつけられると思ったのかもしれないけれど、咳の音からして胃を悪くしている可能性をお話し、イブプロフェン製剤は胃の保護機能を低下させるので服用時には消化の良い食事をするよう伝えると、胃に優しい鎮痛剤を相談された。
 アセトアミノフェン製剤なら胃への負担は比較的少ないものの、痛みを伝達する生理活性物質のプロスタグランジンが胃の保護を命じるのも兼ねているため、痛みを止めること自体が胃に影響することを説明した。
 お客様の主訴は頭痛でズキズキして吐き気を伴うというため、そういうタイプの頭痛も胃と関係することをお話して、『呉茱萸湯』を紹介した。
 旅行先でなるそうだから、移動や環境が変わることのストレスが影響するのだろう。
 あるいは、愉しいとか歓びという興奮もまた、身体にはストレスとなる。
 旅先では美味しい物を多く食べたくなるかもしれないけれど、その中で胃に優しい物を選ぶようお話した。
 ……難しいわな(^_^;)

 お客様から『ペア漢方エキス錠』(桂枝茯苓丸)について、生理中に飲めば良いのか尋ねられたので、可能であれば生理の予定日の一週間くらい前から服用するのが効果的ですと説明した。
 他に、風邪に『パブロンL』と『エスタックイブファインEX』のどちらが効くか訊かれ、後者の方が解熱と咳止めに効果的と考えられるものの、薬の効果は成分との相性も関係し、安全性で言えば前者の方が良いという見方もできることをお話しした。
 今回は『ペア漢方エキス錠』のみを、お買い上げいただいた。
 店頭で風邪薬の相談は多いのだけれど、ものすごく単純化して考えた場合には、症状を感じなくしてリスクを取るか、風邪は自然に治るものと考え症状を抑え込むよりリスクの少ない薬を選ぶかとなるのだけれど、そのリスクは体質や環境でも変動する。
 そのうえ、一口に風邪と言っても咳・喉の痛み・鼻炎・発熱・関節痛など症状は様々で、買い置きしておいたところで適応する風邪をひくとは限らない。
 ちなみに、今の順番で発熱を後ろに置いたのは、風邪で発熱することは案外と少ないからである。
 そもそも医学上の風邪の定義は「上気道の炎症」で、上気道とは鼻から鼻腔を通った喉頭、つまり喉までのこと。
 喉から肺までは下気道と呼び、いわゆる肺炎は風邪の上位互換では無い。
 だから、市販の風邪薬は総合でも症状別でも、必ずと云って良いほど咳止めが入っている。
 つまり、体内の炎症の一形態として発熱をすることはあるけれど、風邪が発熱に至るのは少なく、発熱向けを謳っている風邪薬の販売実績も製薬メーカーの泣きどころとなっているそうだ。
 それから、私たちはもちろん患者さん本人でも判断が難しいのは、風邪の原因の多くはウイルス性であるのだけれど、病院の科目に「耳鼻咽喉科」とあるように上気道はつながっているうえ、そのまま胃まで続いているため胃炎や逆流性食道炎の炎症を喉の痛みと感じたり、近くの神経が反応したりして咳となるし、炎症によって体内が乾燥することでも咳となる。
 さらに、胃が冷えて機能が低下すると鼻水の原因ともなる。
 だから、先に挙げた症状のうち「咳・喉の痛み・鼻炎」の段階では、必ずしも風邪とは限らないのだ。
 そのため私としては、咳止め薬、喉の痛みの薬、鼻炎薬、解熱鎮痛剤をバラバラに常備して、起きている症状で組み合わせるのを勧めたいところ。
 なにしろ、総合風邪薬はそれらの組み合わせなので。
 総合風邪薬は便利ではあるけれど、起きていない症状の成分が体に入れば体の方は不要でも処理しなければならないし、その処理が体に余計な負担をかけて体力を消耗させ、風邪を本格的に進行させてしまうケースも考えられる。
 また、総合風邪薬でも鼻水を抑える成分が多い物、喉の炎症を抑える成分を加えてある物、咳止めのための成分が胃の機能を低下させる物、というように実は傾向の違いがあるため、自分自身で治療方針を決めておかないと選ぶのは難しい。
 ましてや、患者の代理で風邪薬を買う場合は、患者の治療方針と代理で買う人の治療方針のどちらを優先するのか、患者と代理人の間であらかじめ決めておいてもらわないと、こちらから提案しても最終判断はできない。
 そのうえで、症状もヒアリングしておいてもらわないと、提案する薬を選ぶ手がかりが無いので困ってしまう。
「どの風邪薬が一番良く効くか」と質問されることが多いのだけれど、レストランで初対面の店員に「どの料理が一番美味しいか」と訊くぐらい無茶な質問だと理解してもらいたい。
 どんな食材が好きで、何が苦手なのか、味付けの好みは、調理法の指定はあるのか、それらが分からなければ、店員は自分の好みの一品を推すしかできないだろう。
 患者の治療方針も症状も分からないのであれば、私が推す風邪薬は無いので、「薬を飲まずに、食事は消化に良いものにして、内蔵も含めゆっくり休んで下さい」ということになる。
 ちなみに、私自身が風邪をひいたら症状別の薬を使い、食事を控えて、下支えに『地竜』(ミミズ)をバンバン飲みます。
 えっ?
 勧めてる内容と違うって?
 知らない人から「どの料理が一番美味しいか」と問われて最も基本的な食材の一つである「水」と答えても、自分が食べるのは好きな物に決まってるじゃないですかヽ(´ー`)ノ

以下の記事も読まれています。


 
登録販売者から一言 壱の巻 登録販売者から一言 肆の巻「おくすり手帳と個人情報の使い方」 市販薬購入前チェックシート