敵がいるのに自分の武装解除したら占領されますよ?

 成人の息子さんが風邪をひいたとのことで、お客様から「風邪薬と一緒に飲める栄養ドリンクを」と注文された。
 しかし肝心の服用した風邪薬は不明で、発症してから3日ほど経っており、現在は微熱と咳だという。
 風邪の初期だと栄養ドリンクを体内で処理するのに余計な負担が掛かってしまうから、飲むタイミングとしては悪くない。
 ただ、微熱というのは本人の体感らしく、計ってはいないそうな。
 食欲はあるそうだけど、それは脳がエネルギーを欲しているだけなのか、胃腸がちゃんと働いてるうえでの事なのか、判断がしづらい。
 ふむぅ、本人が頼んだのか、親が何かしてあげたくて買いに来たのかでも、勧める物が変わってくるしなぁ。
 本人が頼んだ場合は、ひとまず注文通りの物を提示しつつ養生法の情報を提供するし、頼まれた訳ではないのなら該当品を幾つか提示しても最終的に何も売らないという選択肢もある。
 情報不足のまま売って、「それが当たり前」のように思われても困るので、できれば薬を買う時には「現在の症状の把握」「症状の経過」「使用した薬の内容」の三点セットが必要だということを理解して次回に活かしてもらいたいところ。
 とりあえず、食欲があるようであれば風邪を治すのに必ずしも栄養ドリンクは必要ではないことを説明したうえで、咳に対応できて胃にも優しく、奮い立たせるというよりは労(いたわ)る『新ヒストミンゴールド液』を案内した。
 そして、現在の咳は風邪薬の副作用か発熱によって体内が乾燥しているのが原因の可能性をお話して、『麦門冬湯』を紹介した。
 結局のところ、本人に頼まれた訳ではない様子で、本日のところはお買い上げは無し。
 食欲については、内臓は疲れているかもしれないので、食欲に任せて食べないように伝えて下さいとお話した。

 一方、成人の息子さんからメールで薬を頼まれたというお客様が来店。
 主訴は、喉の痛みと鼻水と咳だという。
 ただ、主訴の苦しさの順位づけは不明のようだった。
 まぁ、たぶん無意識に一番最初に一番苦しい症状を挙げるだろうけど。
 人に薬を頼む時には、その辺も覚えておいてくれると助かります。
 特に風邪の場合、そもそも風邪というものが定義が曖昧で、呼吸器系の炎症などを総じて『風邪症候群』と呼ぶものの、あくまで「病状」のことで特定の「疾患」の名前ではない。
 だから風邪薬においても、解熱と鼻炎抑制と咳止めと去痰といった総合的な物は、的を狙わずに全方位に攻撃するようなもので、体に余計に負担を掛けてエネルギーを消耗させ、表立った症状は軽減しても、病状としては長引かせてしまう事がある。
 それよりは、狙いを定めて症状に対して各個撃破していった方が効率が良く、一番苦しい症状を潰すと随伴症状も一緒に軽減したりする。
 患者さんの望むことが、「早く治ること」であるならば、主訴の順位づけは重要なのだ。
 風邪を引いている事を「早く感じなくすること」なら、感じ方が弱まれば良いだけなので、長引いても構わないのかもしれないけど。
 総合かぜ薬で特に問題なのは、炎症を起こしてるということは熱を出すことでウイルスを倒したり、鼻水や咳でウイルスを排出しようと体が戦ってる状態のところへ、別な軍隊が割り込んできて武装解除させるようなもんなので、本当に体を休めて体力の温存に務めないと、敵のウイルスは依然として元気なまま体に留まり悪化させてしまう事がある。
 子供の場合なら、いざとなれば学校を休むとか出来るだろうけど、成人の場合は仕事があるからと無理してしまい、なお悪いことに、薬による症状の軽減を治ったものと錯覚する可能性が高い。
 最悪の場合は、肺炎に一直線である。
 だから、本人であれば体を休められるかどうかを確認して、休めないようなら体力を温存するためにも総合ではなく症状別の風邪薬を案内している。
 今回の場合は、ひとまず土日で休めるみたいだったけれど、同時にこの二日間で治したいというお話だったため、喉の痛みを主訴の一番手とした『パブロンエースAX』と、鼻炎を主訴とした場合の『ベンザブロックSプラス』を候補にしたところ、前者を購入された。
 鼻炎が、鼻水なのか鼻づまりなのか分からなかったから候補にしなかったけど、鼻水が無くて喉の痛みが主訴であれば、眠くなりにくい物として『銀翹散』をと紹介だけしておいた。
 これは、2日間で治らなかった場合の予防線。

以下の記事も読まれています。


 
登録販売者から一言 壱の巻 登録販売者から一言 肆の巻「おくすり手帳と個人情報の使い方」 市販薬購入前チェックシート