医薬品は基本的に未開封でも店頭での返品は受け付けられないので、お会計前に相談を

 子供を連れた女性のお客様が来店し、『大正漢方胃腸薬』を購入されるさいに使用経験は尋ねると、ご主人が以前から使ってるとのことで、水とお湯での簡易的な鑑別法を教え、比較として『半夏瀉心湯』紹介したところ、ご主人が一緒に来てると分かった。
 お会計を終えたところへご主人がいらしたのでヒアリングすると、明け方に痛くなることがあり水を飲んでもぬるま湯を飲んでも苦しくなるというお話だった。
 ふむぅ、なるほど、これは判断が難しい。
 先程の簡易的な鑑別法は、水を飲んで楽になる場合は胃炎など胃が熱を持っていると考えられ『半夏瀉心湯』が適応するのに対し、お湯を飲んで楽になるのは胃が冷えているか疲労などによる機能の低下が疑われるので『安中散』の入った『大正漢方胃腸薬』や、機能を下支えする『六君子湯』が候補になるという方針を検討するのだが、人間の体は機械ではないから該当しないケースもある。
 ところが、これまでは『太田胃散』を飲んでいたとのことだったのに、『半夏瀉心湯』のお話をすると、『大正漢方胃腸薬』と勘違いしていて奥さんに頼んだと分かり、『大正漢方胃腸薬』にも入っている『芍薬甘草湯』を単独で使ってみて問題を切り分ける方法を提案した。
 胃の働きを助ける『安中散』に、こむら返りのような筋肉の痙攣を抑える『芍薬甘草湯』を加えてあるのが『大正漢方胃腸薬』であり、明け方に痛みを感じるということは空腹時に痙攣を起こしていると考えられるので、それが痙攣だけの問題なのか胃の機能の低下が関係するのかを調べたい。
 奥さんも食べ過ぎた時に『半夏瀉心湯』を使っているというため、目的から大きく外していないものの検討が必要と伝えた。
 また、肩や背中が重いたいようだと心臓の可能性もあることを、内臓には痛覚神経が無いことと一緒にお話をすると、胃痛は本来はありえないことだというのはご存知だった。
 内臓に痛覚神経があったら、物を飲食するたびに激痛が走ることとなってしまい、じゃあなんで胃が痛くなることがあるのかといえば、近くの神経が胃の代わりに異常を知らせようとしているから。
 心臓も同じことで、心臓自体が痛みを感じるようだと拍動するたびに痛みでのたうち回ることになるだろう。
 それゆえ、心筋梗塞などの心臓の異常は肩や背中の痛みで現れることがあり、その場合は吐き気を伴ったり息苦しさも感じたりするので、病院に行くことを検討したほうが良い。
 ご主人は、油物を食べると苦しくなり、お酒も飲むというので『タナベ胃腸薬ウルソ』を紹介し、胃腸と肝臓との関係をお話すると左脇腹が膨れることもあるそうだ。
 むー、それはさすがに店頭では判断のしようが無い。
 最初の方の簡易的な鑑別法にしても、あくまで状態の推察の一助であって病気の診断のためでも無い。
 良く「胃で食べ物を消化して、腸で栄養を吸収する」と誤解されがちだけれど、より正確には「胃で食べ物をボロボロに崩して、腸で消化と吸収を行なう」ので、例えば胃もたれでも胃が悪くなってるとは限らず、腸で消化が追いつかないと胃に対して食べ物を送ってこないよう指示して堰き止め、それが胃もたれとして現れることがあり、その場合には腸の働きを助ける必要がある。
 『タナベ胃腸薬ウルソ』の主成分であるウルソデオキシコール酸は、腸において消化する酵素の一種で肝臓を通して体内を循環しており、車のオイルのように交換して消化力を取り戻すのが目的のこの薬は、症状のあるときだけ飲むのではなく、1週間以上は続けて使うのが効果的。
 そして、ウルソデオキシコール酸は病院では肝臓疾患の治療にも使われるため、お酒を飲む人には候補に入れておいてもらいたい胃腸薬が『タナベ胃腸薬ウルソ』なんである。
 とりうえず『大正漢方胃腸薬』はキャンセルとなり、食事の写真や痛む時の時間や痛み方などを記録して、病院の受診に供えるよう勧めたうえで『タナベ胃腸薬ウルソ』と『コムレケア』(芍薬甘草湯)をお買い上げいただいた。
 それにつけても、最初から患者自身であるご主人が自分でレジに並ぶか相談してもらえれば、『大正漢方胃腸薬』のお会計まで進まないで済んだのかもしれないのに、どうして奥さんに買うのを任せたのか。
 一度お会計をしてしまうと、返金処理が大変なんですよ。
 お客様からすると、レジから現金を返すだけに見えるかもしれないけど、ドラッグストアやスーパーともなると後で返金伝票に理由を書いたりレシートの管理番号を記入したり、それを経理担当者と上司の押印をもらって処理しなければならず、面倒なことこのうえない( ´Д`)=3
 それを考えると、奥さんに薬の使用経験など尋ねずに黙って売ってしまったほうが、どんなに楽か。
 いや、今回の場合だと買い間違いだから、どのみち後で返品処理することになるのか。
 でも、医薬品は原則として返品を受け付けられないから(未開封に見えても、細工をされてる恐れがあるので廃棄するしか無い)、上司の許可を得るのがさらに面倒。
 今回は、購入直後だから対応できましたが。

 やや高齢のお客様が、以前にうちのお店で買った胃薬を使ったとのことで売り場を案内したけれど、銘柄を覚えておらず、使ってみてどうだったかを尋ねても答えられなかった。
 主訴は胃痛で、食べてなくても痛むとのことだったので胃壁の絆創膏になる『スクラート胃腸薬』を案内すると、食べても痛いと話が変わった。
 明日には病院に行くというため、胃酸の出過ぎを抑える『ガスター10』と同じような働きをする『ガストール』と、キュッと締まる感じがするということから痙攣を抑える『ブスコパン』を紹介した。
 何度も「すぐ効く?」と訊かれたので、胃などの内臓には痛覚神経が無いことを説明し、現在の胃の状態の正確なことは分からないので、胃の活動を抑える『ガストール』のように起きている症状を抑えるか、機能の改善を図る『ギャクリア』(六君子湯)のような薬を選ぶかは、患者さん自身の方針によるとお話をした。
 『ガストール』も『ブスコパン』も、すぐ効くかと問われれば単純に「すぐ効きます」と答えるだけでも良いのだけれど、症状が治まるのを「効く」と限定して良いものかは迷うところ。
 症状がすぐに治まらなくても、機能を助ける漢方薬だって時間的には「すぐ効きます」ということになるから、「効く」というのをどちらで考えるのかは、患者さん自身が定義しないと簡単には答えられないのだ。
 今回は『ブスコパン』を購入され、食事は消化に力のいらないインスタントスープか味噌汁で済ませるよう勧めると、「無理」と苦笑いをされたが、1週間くらい消化に良い食事をすれば薬を使わなくても治る可能性があると伝えたところ、少しは納得していただけた模様。
 それで改善しなければ、やはり病院である。

 中国人らしいお客様が漢方薬の棚で迷ってる様子で、レジに持ってきたのが『猪苓湯』だったためヒアリングを試みたけど、言葉が良く分からず四苦八苦。
 灼熱感は無く、残尿感のみのようなため、そのままお買い上げいただいた。
 灼熱感があれば『竜胆瀉肝湯』を、疲労を感じるようなら『ボーコレン』(五淋散)を候補にと考えていたものの、翻訳アプリを使っても意思の疎通に限界がある。
 それでも、体内を温めるのに血流を良くする方法として、シャワーを背中側に浴びるよう教えようと絵を描いたら分かっていただけた模様。
 ε-(´∀`*)ホッ

以下の記事も読まれています。


 
登録販売者から一言 壱の巻 登録販売者から一言 肆の巻「おくすり手帳と個人情報の使い方」 市販薬購入前チェックシート