初めに特定の薬の売り場を尋ねられると、ヒアリングするタイミングが難しい

 やや高齢のお客様からの売り場を尋ねられて案内すると、サリチル酸製剤の『アスコラルL』の冷感に決められ購入となったのだが、弱めな薬であることを伝えると、ご主人が植木の手入れをしていて腰を痛めたというので、初めに強めの薬を使うステップダウン方式もあることをお話した。
 は、貼るタイプと塗るタイプという剤形の違いの他に、成分によって鎮痛効果の強さと浸透力も異なり、重要なのは成分の方。
 冷感・熱感にしても、あくまで体感でしかないので、もし実際に患部を温めて症状が和らぐようであれば簡易カイロなどで温めてしまった方が良い。
 そして、打ち身や捻挫などの急性症状には、最初に鎮痛効果の強い薬を使って痛みと炎症を抑え、症状が軽減するのに従って薬も弱い物に乗り換えていくのがステップダウン方式で、弱い薬をダラダラと長く使うのは好ましくない。
 特にサリチル酸の鎮痛効果は極めて弱く、やっているのはチクチクした刺激によって痛覚神経を混乱させることで痛みを軽減する。
 一方、その刺激は血流を良くするので肩こりなどに適している。
 しかし急性の痛みというのは、患部の異常を知らせるために痛みの伝達物質が急速かつ多量に生産されるせいなので、その物質の生産を素早く強力に抑えるのが、予後の痛みの残り方にも関係し、最初に強めの薬を使う理由でもある。
 お客様に、もっと早い段階で伝えられれば良かったのだけれど、初めに売り場を尋ねられるだけだと、案外とヒアリングするタイミングが難しい。
 最初から説明しようとしても、売り場を知りたいと思っている気持ちを満足させないことには、話を聞いてもらえないことが多い。
 ところが、売り場に案内し終えると、もうお客様はそれで満足してしまい自身で選び始めてしまうので、口を挟みにくくなってしまうのだ。
 できれば、売り場を尋ねる前に「誰が」「どんな症状」なのかの方を先に教えてもらいたいところ。
 今回は、そのまま購入となり、もしまた同じようなことがあったら、初日は氷水で患部を冷やした方が良いことも伝えた。
 最初期に、痛みの伝達物質の生産を抑えるためである。
 それさえしてあれば、使う薬は弱めでも構わないので。

 を連れたお客様が、の棚で次々と比較していてインドメタシン製剤の『ハリックス55IDプラス』を購入されるのでヒアリングしたところ、ご主人が足を角にぶつけたとのことだった。
 浸透力は弱いものの鎮痛効果の高い薬なので、適応することを伝えたうえで、初日は冷やした方が良いことをお話すると、もう昨日のことで冷やさなかったそうだ。
「今日は?」と訊かれ、もう遅いことと初期に痛みの伝達物質が作られるのを阻止するのが大事なことを説明した。
 それこそ、『冷えピタ』などのような冷感シートは無意味で、氷水を使い、患部の感覚が無くなるまで冷やす。
 強烈に冷やすことにより患部の身体機能を低下させれば、痛みの伝達物質を生産する能力も低下するという次第。
 たまに、外出先で捻挫をして薬を買いに来る患者さんがいるけれど、まずは近くのコンビニに飛び込んで氷を買い、充分に冷やしてから来店してもらいたいくらいである。

 若いお客様が、サリチル酸製剤の『ハリックス55EX』と『ロート抗菌i』を購入されるさいに、前者は弱めの薬で良いのか、後者はは無いかを確認し、どちらも「大丈夫」とのお返事だったが、声をかけたことに少し驚かれたようだったので、「念のため確認させていただきました」と伝えた。
 同じブランド名のシリーズでも成分が異なれば効果が違うし、剤形を好みで選ばれていると期待している効果を得られないこともあり、それをお客様が知っているとがうかは、声を掛けてみなければ分からない。
 私たち登録販売者や薬剤師を、自動販売機か何かと思われているのだとしたら残念なことである。

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