火傷の薬という物は存在しません

 うちのお店は、登録販売員が常時一人体制で、それでいて残業に厳しいため、交代時にはレジの鍵を手渡すくらいで、情報交換は基本的に連絡ノートのみ。
 以前は、上司に登録販売員がいたため連絡ノートにも目を通してもらっていたのだけれど、ついに上司に有資格者が一人もいなくなってしまい、作業の引き継ぎが迷走中。
 そして一番困るのが、日々の品出しや返品、セールの売り出し準備などに追われて、肝心の売っている薬の勉強が、就業中には全く出来ない。
 幸い、SNSで質問させてもらったりして勉強できる環境が少しはあるけど、それを同僚と共有できないのは、やはり痛い。
 特に漢方薬については、私だって修行中で人に教えるような域には達していないため、私が不在の時に困る事が。
 同僚のメモによると、以前に私が『コリッシュ』(治肩背拘急方)を勧めたお客様が再訪し、良く効いたから容量の大きい物をと希望したらしい。
 しかし、大容量の物が無いため、同じく効能が「肩こり」の『独活葛根湯』を勧めたという。
 お客様には以前に、同じ「肩こり」という効能でも、上半身を温めて血流を良くする『独活葛根湯』と、水分代謝を改善して胃の働きを助ける『治肩背拘急方』では、肩こりを治すプロセスが違うという事を説明していたので、今回も『コリッシュ』の方を買っていかれたようで、ホッとした。
 顧客名簿を作れれば、もっと細やかに患者さんの対応ができるんだろうけど、個人情報の管理の難しさもあり、連絡ノートには相談内容程度しか書けないため、個別の患者さんの把握が出来ない。
 つまりは、「○○様に☓☓の薬を販売しました」という引き継ぎができないので、こういう事になる。
 それだって、私が入るまでは、連絡ノートには作業の事務連絡しか書いてなかったのを、「お互いに、お客様に対応した時の様子が分からないと不便だから」と提案して、相談を受けたお客様の分だけでもメモするようになったんだけど、日々の作業に忙殺されて、そのメモに目を通す時間が取れないという本末転倒ぶりで困ってしまう。
 この会社、なんでドラッグストアーなんか経営してるんだろうとまで思ったりσ(^◇^;)。

 うちの系列のお店は、お客様から店舗に直接電話が繋がらない。
 本部のカスタマーセンターで一括して受けて対応し、お客様からの要望があって初めて店舗に中継される。
 細々とした要件に煩わされないのは楽だけど、ご近所のドラッグストアーとして身近な存在になれないのも、このせいだと思う。
 で、カスタマーセンターから電話で中継しますという連絡があり、お客様の対応をした。
 2歳の子供にお湯が掛かって手を火傷したという。
 皮膚科に連れて行こうと思ったものの、病院に電話をすると混んでいるため、連れてきても診察に時間がかかると言われてしまったため、「火傷の薬」を買いに行きたいと言われた。
 ズゲッ∑(゚ω゚ノ)ノ
 えっと……、えっと、こっちが慌てちゃ駄目てん、落ち着いて状況の確認を。
 患部は赤くなっているものの、範囲は狭く、急激な水膨れになったりはしていないらしい。
 病院に電話をしていて、救急車の手配などを指示されていないのは、一応はその状況を確認しているという事なのか。
 でも、それならもう少しアドバイスをしておけば良いのに。
 いや、病院の方の状況は分からないけど。
 そして、患部を水で冷やしたかを尋ねると、10分くらいしか冷やしていないというので、流水で引き続き30分以上は冷やすようにお話した。
 患部が体に近いようであれば、体が冷えすぎないように体の方にはタオルなどを羽織らせる事も考えたけど、掌の方らしい。
 そのうえで、「火傷の薬」は存在しないこと、十分に冷やしてから、患部を保護するための油分を含んだ『紫雲膏』や、化膿止めの薬を塗って、患部が汚染されないように清潔なガーゼで覆う事になりますと説明した。
 お医者さんによっては、「うちに連れてくるくらいなら冷やして」と言われたり、119番に電話しても「冷やして下さい」と言われるはずなので。
 それから、後から水膨れになったら、できるだけ潰さないようにとお話した。
「潰しちゃ駄目なんですか?」と聞き返されたのは、本当に知らないのか。
 あの水膨れは、透明な血液みたいな物で、雑菌による感染を防ぎ、皮膚の再生を助ける物なのだけれど、まだまだ浸透していないようで。
 心配であれば、お連れいただいたら対応しますが、まずは患部を冷やすことを優先して下さい。
 お話しているうちに、どうにか落ち着いて頂けたようで、電話は切れた。
 あまり電話を長引かせても、その間にも患部を冷やしてもらいたいから、内心は「早く電話を切って!!」と気が気じゃなかった。
 その後には、お店を訪れる事は無かったから、一先ず無事に手当ができたのか、それとも「火傷の薬という物は存在しません」「とにかく冷やして下さい」という説明に、「頼りにならない」と思われてしまったか。
 振り返ってみて、電話口でアワアワし過ぎてしまったなぁ……と反省(´・ω・`)

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火傷の薬という物は存在しませんへの2件のコメント

  1. アバター はぐれ薬剤師
    はぐれ薬剤師 コメント投稿者

    ドラッグストアにも発祥が薬系と異業種の二種類があります。異業種とは元々は薬屋さんではなかった人たちです。花屋さん、葬儀屋さん、デスカウントショップなどなど。薬屋は儲かるらしいということから始めた人たちです。薬系のドラッグストアならば発祥時の薬屋の理念は多少なりとも残っていると思いますよ。

     
    • アバター 北村俊純
      北村俊純 コメント投稿者

       元々は、薬局から始まったらしいんですけどねぇ。
       合併だ吸収だで、色々と変わっているようで(;´・ω・)