医者ではありませんが、患者さんの外見的な年齢、歩き方、顔色などの観察は欠かせません

 お客様が『スキュータムA』をレジに持ってきたけれど、足を引きずっていったので念のため弱めの薬であることを伝えたところ、捻挫をしたというので、血液中にも成分が入っていき鎮痛効果も高いジクロフェナクトリウム製剤を提案した。
 急性症状に弱い薬を使うとダラダラと長引かせてしまうことになるので、最初にバシンと強い薬を使って短期決戦に持ち込んだほうが良い。
 ただし、良く効くからといって症状が軽くなっても使い続けていくのは身体の、特に薬剤を代謝する肝臓の負担となるため、弱い薬へと乗り換えていくステップダウン方式が望ましい。
 今回は患部が動く部分でもあるため、貼り薬よりも塗り薬を勧めて、『アンメルツNEO』に変更となった。
 捻挫をしたのは今日だというから、薬を使う前に初日は氷水で患部の感覚が無くなるくらいに冷やすよう勧めた。
 痛みは脳に異常を知らせるために必要で、痛みを感じないと怪我が悪化してしまう。
 そこで身体は、怪我をしたり、打撲や捻挫をした場合、患部にプロスタグランジンなどの痛みの伝達物資を生産する。
 しかし人間の体は機械ではないから、ちょうど良い量に調節することができず、ときとして作り過ぎてしまい、生産された痛みの伝達物質の量に見合う炎症を起こすことにより、患部に修復する材料を運ぶ血流を良くする。
 だからまぁ、患部の修復という観点のみで見れば、痛みに耐えられるのなら炎症するのに任せておくのも悪くはないのだけれど、苦痛を我慢するというのも体力が必要で、無駄に体力を消耗してしまうと風邪など他の病気になってしまう可能性が高まる。
 そこで、初期に氷水でガッツリと冷やして患部の血流を一時的に悪くさせ、痛みの伝達物質の生産量を抑制するのだ。
 すると、結果として炎症が長く続くのを防ぐことができ、痛みからの回復は早まる。
 ただし気をつけなければならないのは、先にも書いたように本来は炎症することにより患部の修復がなされるので、痛みが軽減しても無理な動作は避けなければならないし、炎症を抑えた分だけ入浴したり温かい物を積極的に飲んだり、お腹周りを冷やさないよう厚着をして、体の内側の血流が良くなる工夫は必要。

 やや高齢のお客様が『キャベジンコーワα』を購入されたさいに、常用する場合には注意するよう伝えたところ、一旦帰られてしばらくしてから戻ってきた。
 どうやら相談していただける気になったらしく、主訴は胃もたれとのこと。
 先ほどの話はにつなげて、『キャベジンコーワα』のような総合胃腸薬は胃酸の出過ぎを抑える制酸剤と、消化を促す消化剤という相反する成分が入ってることや、ミネラル成分が腎臓に負担をかけることを説明した。
 薬というのは成分が増えるほど、副作用の連鎖や他の薬との兼ね合い、持病がある場合にはその影響など、考えなければならない項目が増えて難しくなってしまう。
 それこそ風邪薬や鼻炎薬とぶつかりやすく、高血圧は気をつけなければならない既往症であり、高齢者の場合は「昔から飲んでるから」と選んでいる確率が高く、高血圧の可能性も高いため、ひと声かけなければならないんである。
 お客様には他の選択として、胃が弱っている場合に適応する『スクラート胃腸薬S』を紹介した。
 ちなみに無印の『スクラート胃腸薬』は、普段から元気で食欲のある人が、たまたま食べすぎた場合などに用いる。
 この辺り、どちらを使うか迷った時の簡易的な鑑別法としては、お湯と水のどちらを飲むと症状が楽になるかを試すというのがある。
 冷たい水を飲んで楽になるのなら胃炎を起こしていると考えられ、無印の『スクラート胃腸薬』が、温かいお湯を飲むとジンワリ気持ち良くなるようだと胃が冷えているか疲れている可能性が高く『スクラート胃腸薬S』の方が候補となる。
 お客様は、肉を食べると胃もたれを起こすという話から、『タナベ胃腸薬ウルソ』も候補として挙げた。
 消化というと胃をイメージしがちだけれど、肉や脂は胃では柔らかくするだけで実際の消化は腸で行われる。
 その腸で消化に使われる胆汁の成分の一部が、『タナベ胃腸薬ウルソ』のウルソデオキシコール酸で、身体の中で循環しているため少しずつ濁って消化力が落ちると考えられており、特に高齢者ともなると体内での浄化機能が落ちているから、これを車のオイル交換のように新しい物と入れ替えてあげるのだ。
 だから、『タナベ胃腸薬ウルソ』は胃の具合の悪い時に単発で使うのではなく、1週間~2週間程度は連続して服用する。
 今回のお客様は、食後に水が欲しくなるというため胃炎を起こしている可能性をお話し、しかし総合胃腸薬を望まれたため、消化剤に健胃剤が多く入ったタイプの『第一三共胃腸薬プラス』との交換となった。
 特に『キャベジンコーワα』と比較してポイントとなるのは、制酸剤として働くロートエキスが入っていないこと。
 ロートエキスは下痢止めにも入っているくらいで、内臓の動きを鈍らせることにより症状を抑える。
 胃炎を起こしている時には、活発に活動をしている胃を大人しくさせるのは効果的ではあるが、高齢者にはいささか乱暴なやり方でもあり、胃の機能そのものは落したくなかった。
 お客様からは、「勉強になった」と言ってもらえた。

「ホントは難しい胃薬の選び方」

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