人間は他人を罵る事で快楽を得る唯一の動物である

 子供用の酔い止め薬を買っていったお客さんが慌てた様子で戻ってきた。
「頼んだ物と違う!」と興奮している。まずは、言いたい事をあらかた言ってもらって腹の虫を納めてもらわなければならない。ここで対応を誤ると泥沼である。
 落ち着いたところで、商品名を確認すると間違いない。しかし、思い当たる事がある。
 パッケージが変更になったのだ。なので、成分も何も変わっていない事を説明した。
 自分の勘違いに恥じたのか、しきりに「こないだ買ったばかりなのに」と言っていた。パッケージが変わったのはもうずいぶんと前の事なのだが、まぁツッコミ入れる訳にもいかない(苦笑)
 でも、手渡す時に3回くらい確認してもらったはずなんだけど。
 ブランド物に身を固めた中年女性が来店。
 ところが、なんと言うか“自分を飾らない”人であった(笑)
 やたら怒ってるような口調で薬の注文をしてくる。何かあったのだろうか?
 そしてお金もカウンターの上に投げつけるように寄こされた。
 ううむ、何か腹の立つ事でもあったのかと気になる。それとも、元々の性格なのか。
 せっかく高そうな物を身につけているのだから、そういう演出をすればいいのに。なんだか、“もったいない”と思ってしまった。
 膀胱炎を訴える患者さんが頻々。
 関東では雨で寒い日が続いていたのが、急に昼間は暑さが戻ってきたせいで、腎臓系統が疲れているのだろう。
 膀胱炎には猪苓湯(ちょれいとう)を用いるのが効果的。
 特に、「アヤシイな?」と思った時に飲んでおくと症状が顕在化せずに治ってしまう事もあるので備えておくと良い。
 そんな訳で、現在の症状に必要な分以上を買い上げてもらい在庫が少なくなってきた。
 しまった、土日は問屋さんがお休みだ(^-^;
 明日は、膀胱炎の患者さんが来ない事を祈ろう(苦笑)
 家のポストに、『医師の経営する住民無視の斎場建設に反対』と題するビラが入っていた。
 実は近所の長らく空き地となっていた所に斎場が建設される事になったのだ。すでに工事は始まっているのだが、建設に反対する人たちがいて、テレビでも取り上げられた事がある。
 しかしなんだな、このビラを読むと、“他人を貶めるのは快楽の一種”だというのが良く分かる。
 人気番組となったフジテレビの『トリビアの泉』の冒頭で、SF作家アイザック=アジモフの言葉として「人間は無用な知識の数が増える事で快感を感じる事ができる唯一の動物である」と紹介しているが、悪口を言う事で快感を感じるのもまた人間だけであろう。
 だから私も、この日記でやたらと悪口を書くわけだが(苦笑)
 しかも今回のビラでは、“人は怒ると理性や合理的な判断力を失う”という事まで証明していて、資料価値が高いのではないかと思えた。(なんの資料だ)
 文章というものは読み返して推敲する事ができるのだから、論理性があると思ったら大間違いである。漫画やアニメ、ゲームなどよりも文学や新聞を読まなければダメだというのが幻想にしか過ぎないという事をこのビラは教えてくれる。
 せっかくなので面白い部分をちょっと紹介しよう。
 以下、───が引用、===が私のツッコミである。
───計画物件は道路(通学路にもなっています)を挟んで柳崎第3公園と運動場および遊歩道の出入口に面していますが、会葬者による路上駐車の常態で迷惑駐車と交通事故が心配されます。また、会葬者を装った盗難や犯罪者も不安です。特に通夜・葬儀・法要というセレモニーが、日常的かつ永久に行われることは、近隣住民にとって堪えがたい精神的苦痛となると共に柳崎第3公園を中心とする現在のすばらしい環境が壊されます。
===この手の建設反対で必ず出るのが“通学路”。個人的には子供をダシにして正当化しようとする方法論には納得がいかない。子供も日常社会で生活していく事を考えれば、通学路を特別扱いするのは必ずしも好ましいことではないはずだ。
 また、路上駐車や迷惑駐車といっても斎場では事前に警察に届け出る義務があり、きちんとした対応をしなければ当然の事ながら処罰の対象となるのだから心配するには及ばない。パチンコなどの遊戯施設と同じに考えてるのかもしれないが、実際には川口市内には道路に面した斎場は他にもあり(私は子供の頃にその近くに住んでいた)、実際に状況を調べてみれば良い。
 会葬者を装った盗難や犯罪者を心配しているが、犯罪のセオリーとして地域の住民には害はないだろう。なにしろ他に商店も無い地域である、特定の住民が住んでいる場所では、周囲の目がありすぎて盗みに入る事もできない。参列者に対しての置き引きなどはあるかもしれないが。
 で、まぁここまでは筋も通っていない事も無いし、論理性も保たれているように思えるのだが、ココから先、途端におかしくなる。
「近隣住民にとって堪えがたい精神的苦痛」って、いちいち見知らぬ他人の不孝に付き合うなど、なんて心優しい人なんだろうと呆れてしまう。だいたい、自分だって死んだら葬儀くらいはするんじゃないのか?(しないと決めてるなら別だが)その時に利用する他の斎場の付近の住民への迷惑については考えないのかね。それとも、斎場も予め地方の辺鄙(へんぴ)な所にある斎場を指定しているのだろうか。だとしたら、たいしたモンだが。
 “最近の子供は命の重さを知らない”という論もある事だし、公園の近くに斎場があるってのは教育的でいいんじゃないかねぇ。
───土地所有者は開業医(川口医師会理事)であり、事業計画者の義父にあたります。医師は人の苦痛を和らげ、生命を救うために医療をなす職業だと思います。そういう人が他方で人の死に際して携わる葬祭業に深く関与する事に強い疑念を抱いています。
===A・ビアスの『悪魔の辞典』かい(笑)
 『悪魔の辞典』とはA・ビアスが著した知的遊戯を目的とした本で、様々な事柄に強引かつ洒落た意味づけをした辞典である。
 http://another.page.ne.jp/html/devils.html
 確か私の記憶では、医者の項目を引くと「葬儀屋の友人」と書かれていたと思う。
 まさか、それと同じ論法を本気で持ち出す人がいるとは(苦笑)
 このビラの文だと、まるでその医師が自分で患者を殺して、ついでに葬儀まで出させて、診療費と葬儀代で儲けようとしているかのような書き方である。
 名誉毀損ギリギリな気がするが、何かアブナイ薬でも使っているんじゃあるまいな。
 というのも、この後さらに論旨が破綻していくのだ。
 
───なお「有限会社 柳崎会館」は、斎場の建設計画が唐突に近隣住民に伝えられた今年3月中旬より5ヶ月以前の平成14年10月10日、すでに設立登記されていました。(建築計画の公示後の調べで判明)
===この記述、なんの目的で書いたのか意図が不明。斎場の計画の“後”に会社が設立されたというのなら問題だとは思うが、会社が先に設立されているという“当たり前”の事を指摘して、いったい何を批判したいのか。
 そして、このビラをまいた人たちは、驚きの行動に出る。と言うか、出た事を記述している。
───私たちは、医師が本来の職業とは裏腹な葬祭業に深く関係するという前代未聞の事態に社会的、道義的責任を求めて反対運動を続けています。どうか、皆様のご理解とご協力をお願いします。
 なお、川口市長には471名の建設反対署名を添付して陳情し、日本医師会、埼玉県医師会、川口医師会等にはそれぞれ建設中止の要望書を提出しました。本件は、テレビ、新聞等でも大きく報道され全国的な反響を呼んでいる事を付記致します。
===ええと…、ギャグじゃないんでしょうか(^-^;
 医師がヤクザに資金提供をしていたとか、殺し屋家業を営んでいたというのなら話は分かるが、まっとうな商売である葬祭業を営む事のどこに社会的、道義的な責任があるというのか。なんだか、ヤクザよりもタチの悪い言いがかりとしか思えない。
 さらに、川口市長に陳情するのはいいとして、医師会がなんの関係が?
 川口医師会に所属しているというだけで、日本医師会や埼玉県医師会に要望されてもなぁ……。病院建設反対なら筋が通らない事もないけど、斎場だからなぁ。要望書を出すなら全日本葬祭業協同組合連合会か、埼玉葬祭業協同組合じゃないのかね。
 http://www.zensoren.or.jp/ http://www.sougi-saitama.or.jp/
 冷静さを欠いて適切な判断ができないばかりか、大きく報道されて全国的な反響を呼んでいるとまで言い出すのは、もはや妄想の域である。
 ニュース好きの私だってテレビで目にしたのは1回しかないぞ。誰か見た覚えのある人います?
 実は私はカラクリがあるのではないかと疑っている。というのも、近隣には白抜きで「斎場建設断固反対!」と書かれた朱染めの幟(のぼり)が立ち並んでいるのだ。
 今回のビラといい幟といい、やけに“手馴れ”ていて、市民運動家が煽ってるような気がしてならない。こっちの方が医師が葬儀業を営む事に疑念を抱くなんてのより、よほどあり得るんじゃないかと思うのだがどうか。
 なんにしても、同じ町内に住む者としては、勝手に“町を代表”してもらいたくないというのが感想。

以下の記事も読まれています。


 
登録販売者から一言 壱の巻 登録販売者から一言 肆の巻「おくすり手帳と個人情報の使い方」 市販薬購入前チェックシート